群馬県立女子大学
群馬学の確立にむけて

歌によまれた上州名物

北川和秀

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上毛野形名の妻の記事を載せる『日本書記』(版本)

 上州名物といえば、空っ風と雷とかかあ天下。このうち、空っ風と雷は万葉集の東歌にすでによまれている。
  空っ風をよんだ歌は、「伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど吾が恋のみし時なかりけり」(三四二二番)。「伊香保」は榛名山。冬には毎日のように吹き下ろす榛名おろしだって、時には吹かない日もあるというのに、私があなたを思う恋心は止むときがない、という意。滅多に止むことがないものの代表として冬の榛名おろしがよまれている。
  雷をよんだ歌は、「伊香保()(かみ) な鳴りそね吾が () には故はなけども子らによりてそ」(三四二一番)。榛名山に雷よ鳴ってくれるな。私にとっては別にどうということはないが、あの娘が怖がるものでね、という意。恋人をダシにして、雷よあまり鳴ってくれるなと言っているが、この男も雷が怖いのであろう。榛名山のあたりは県内でも特に雷が多い。
  かかあ天下は残念ながら上野国東歌には登場しないが、日本書紀にこんな記事がある。
  舒明天皇九年(六三七)に、上毛野形名(かみのつけののかたな) を蝦夷追討の将軍として派遣した。上毛野氏は軍事・外交面で活躍した上野国ゆかりの氏族である。ところが形名は敗北し、周囲を蝦夷に取り囲まれてしまった。兵は逃げ散り、形名まで逃げ出そうとした。この時、形名の妻は嘆いて夫を叱咤し、多数の女たちに命じて一斉に弓の弦を鳴らさせた。形名も立ち上がって進撃した。蝦夷は、朝廷軍がまだ大勢いると錯覚して退いた。すると、逃げ散っていた兵も戻り、蝦夷を討つことができた。
  形名の勝利は、ひとえにこのしっかり者の妻のお蔭である。彼女を群馬のかかあ天下の元祖と言ってしまいたくなるが、でも、かかあ天下とはそもそもどういうことだろう? 
  県立女子大学では「かかあ天下再考」というテーマで、群馬学連続シンポジウムを開催する。一〇月二二日(土)午後一時二〇分開会。多数のご来場を心からお待ち申し上げる。(県立女子大学教授)

きたがわ・かずひで 東京都出身。学習院大卒。同大学院人文科学研究科修了。学習院大助手を経て、県立女子大へ。国語学・国文学専攻。現在、同大教授。著書に「群馬の万葉歌」など。