図書館だより No.27


『助六由縁江戸桜』を読む
── 江戸っ子の男らしさをめぐって ──
附属図書館長  岡本 隆雄
 歌舞伎『助六由縁(ゆかりの)江戸桜』(寛延[1748〜50]ころ、現行に近い内容となるか)は今日最も人気のある狂言の一つであるが、台本(『名作歌舞伎全集』などに収められている)を読んでも、上演された舞台を観るのに劣らず、とても楽しい作品なのである。その内容は、「曽我の世界」を下敷にしてはいるが(曽我五郎が身をやつして敵(かたき)工藤祐経を討つために必要な名刀友切丸を探すというストーリー)、つまるところ江戸っ子の代表たる男達(おとこだて)の青年花川戸助六が、花魁(おいらん)揚巻(あげまき)に「貧乏野郎」の「間夫(まぶ。恋人)」助六と手を切って金持ちである俺の女になれとしつこく迫る武家の白髭の意休とその手下のエセ男達かんぺら門兵衛や奴(やつこ)朝顔千平(せんべい)らに、次々と喧嘩をふっかけ、彼らを叩きのめすという、痛快な勧善懲悪の劇(ドラマ)なのである。
 いうまでもなく、江戸っ子の喧嘩は啖呵(相手を威圧する言葉)、つまり悪態(悪口)の応酬が特徴的である。例えば、意休は助六に、お前は男達(おとこだて)を気取っているが、単なる侠客(きおい。威勢のよいのを売り物にする者)に過ぎないではないかと悪態をつく。それに対して助六は、お前のような金力・権力を笠に着て「大きな面(つら)」をする奴を「竹割りにぶっ放す(真っ二つに切る)」のが「男達の極意(本質)」であり、「男達の意気地」を通すことだと、悪態をもって応酬する。助六だけでなく揚巻もまた意休と悪態の応酬しているから、まさに悪態の万華鏡を覗きみる楽しさがあり、それがなによりもこの劇(ドラマ)の魅力となっている。
 このように、助六の魅力は、黒羽二重に紫の鉢巻きという粋(いき)な姿もさることながら、意休に象徴される金力・権力に対して悪態という喧嘩術をもって敢然と立ち向かう男らしさにあった。助六が江戸っ子のアイドルとして熱狂的な支持を得た所以である。
 それでは、江戸が生んだ助六のような人間像は、近代に入ってどのように受け継がれて行ったのであろうか。ある時、ビデオと見比べながら、『助六由縁江戸桜』を読み返すうちに、江戸っ子助六の「男らしさ」のゆくえ、が妙に気になりだしたのである。
 そんな時、ふと思い浮かんだのが、夏目漱石の『坊っちゃん』に出てくる有名な啖呵(悪態)である。坊っちゃんが、うらなりを陥しいれてその婚約者を横取りする卑劣な赤シャツと喧嘩する時に使おうと思ってあらかじめ用意して置いた、「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被りの、香具師(やし)の、モモンガーの、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴」というのが、それである。これは、助六がかんぺら門兵衛に投げつける悪態の言葉、「溝板やらうの、たれ味噌(味噌から滴る汁)やらうの、出し殻(鰹節で出汁をとったかす)やらうの、蕎麦かすやらうめ、引っこみヤあがらねえか」と妙に似通っているではないか。
 それもそのはずで、坊っちゃんはしばしば自分が江戸っ子であることを口にし、いつも男の「意気地」を貫こうとする。「金や威力や理屈」をふりまわす奴が大嫌いで、そのような「卑怯」な相手を懲らしめようとする。このような行動様式は、明らかに助六に似ている。そういえば、『坊っちゃん』の一人称文体は、いかにも啖呵口調に近い。

人名・地名の難しさ
美学美術史学科・教授  阿天坊 耀
 人名や地名の表記、読み方は西洋美術を学んでいる私にとって何時も悩まされる問題である。昔の人の名前など録音が残っている訳ではなし、エジプトのジョセル王なのかゼセル王なのか、結局文字表記からの推定に頼るしかないのであろう。最近では西洋美術史の本の翻訳などでは、出来るだけ原地音に近い形で人名を記すよう訳者は努めているようである。しかし、もう一般に流布して慣用化してしまった人名表記はそのまま用いている人もいる。私もそれで良いと思う。今さらホイジンガをハイジンハ、ロイスダールをライスダールなどと表記しても、それぞれ別人と間違われてしまう可能性がある。
 以上は人名の表記に関わる事であるが、人名や地名の読み方になるともっと厄介である。国内に目を向けると例えば北海道の地名などわかりにくいものが多い。長万部や知床は有名になったが、妹背牛、音威子府など初めて見る人には直ぐには読めないかも知れない。また同じ文字でも読み方が違う場合も困る。ごく身近の例として「新町」がある。高崎の柳川町からタクシーで市内の「あらまち」に帰る所を「しんまち」と言ったためにJRの新町駅まで連れて来られた旅人がいた。また人名の場合は結局本人に聞くしかないであろう。因に落語の「平林」ではないが、私の苗字「阿天坊」は「あてんぼう」と読む以外に「あてを」「あてぼう」「あでんぼう」の三通りの名乗りを持つと言う。

私にとっての新しい図書館
英文学科・4年  佐藤裕佳里
 私になじみのある図書館といえば、学校の図書館や地方の公立のそれであった。そして、特にそれらに対して便利さを感じてはいなかった。けれども、セントラル・ワシントン大学の図書館を見て、それまでのイメージは払拭された。
 まず、図書館の建物自体の大きさに驚いた。それ以前に利用した図書館は何らかの建物内の一室であったため、図書館とはそういうものだと思っていた。しかし、そこでは建物全部が図書館だったのだ。図書館を外から見上げたのも、中での人探しが大変だったのも初めてだった。
 入り口を入ると正面にコンピューターが置いてある。当初はその使用目的も操作法もわからず素通りしていた。しばらくたって、そのコンピューターは本を検索するためのものだと判明した。実際に使ってみて、簡単で便利なことを実感した。というのは、何か資料を探しているときにキーワードを入れるだけで、その言葉が出てくる本がすべて表示され、それらがどこに置いてあるのかも知らせてくれるからだ。自分で行なうのはキーボードを打つことだけである。
 また、本の貸し借りはすべてコンピューターで管理されているため、一冊一冊にバーコードが付いていた。万一、カウンターを通さずに本を持ち出そうとすると、出口でアラームが鳴る仕組みになっていた。これにも驚かされた。
 私はそこで図書館が大好きになり、毎日通ったものだった。

ようやく変わります、附属図書館が
───「電子図書館」化への第一歩を──
附属図書館
 昭和55年に開館した当館は、18年を経過し、平成9年度末の所蔵冊数は13万冊を数えている。この間、全国の殆どの大学が業務の電算化を既に完了し、今や、図書館は電子手段を用い、海外の大学・機関から資料を容易に入手できる時代を迎えている。しかし、同時に各大学の財政状況は厳しく、電子化への道は容易ではない。
 こうした中で、当館も「図書館業務の電算化」を計画し、平成11年度内一部稼働をめざしている。
 当館では、図書の発注・管理・検索、図書カードの作成・維持、各種統計の算出、蔵書目録の作成等、業務の全てを手作業によっている。しかし、蔵書冊数の増加や資料形態の変化、電算化を完了した大学・機関との関係等により、その運営の維持・管理に高度性を求められている。
 他方、電子図書館の機能は多岐にわたり、その利便性は著しく高いものとなっている。そして、その基礎を形成するのが図書館業務の電算化である。
 先進館では、学術情報センター*1 の諸機能の活用をはじめ、学内出版資料・貴重資料の電子化、海外専門機関との接続、非来館型24時間利用体制*2 の確立、書誌情報の国際的統合*3 への参加など、電子図書館化へと「変貌」し、端末機の画面を通じて内外資料の直接入手や自館情報の内外への発信をおこなうまでに至っている。
 故に、当館の業務電算化は、運営管理面と先進館との格差是正面から至上命題となっている。
 電算化された場合、利用面では以下のように変わる。

◎貸出・返却が簡便になる。
 利用者は、複写申込や館外利用の際、図書カードを提示するだけですむ。ブックカードと図書との照合作業等が省かれるので、待ち時間が短縮される。
◎図書検索カードが廃止され、端末機による資料の検索・予約ができる。
 書名カード、著者名カード等、5種類のカードを作成・配列しているが、目録や書誌情報が端末機の画面上に表示されるようになり、各図書カードは不要となる。検索速度も速くなり、貸出中の図書の返却予定日もわかり、予約もできる。
◎各種図書目録の表示・印刷が可能となる。
 現在作成している冊子体の蔵書目録を廃止し、代わって、同形態のものを画面上で表示する。タイムラグはなくなり、プリントアウトもできる。この他、新着、分類別、著者別、利用頻度順などの目録が作成可能となる。
◎その他
 資料の選定・発注・受入が迅速・確実になる。延滞者の自動チェックができ、長期延滞者には督促状の打ち出しができるようになる。
 平成11年度には、学術情報センターとも接合する予定であり、当館の書誌データーを同センターを通じ、各大学等に公開できる。さらに、研究室・図書館の端末機から同センターにアクセスし、内外の主要機関の資料所在状況が瞬時に把握できるようになる。
 このように、本学附属図書館の電算化は、既存業務の効率化、新業務の創出を可能とし、学生・教員の勉学・研究へのいっそうの貢献と、本学イメージの上昇を期待させるものである。

*1 学術情報センター 昭和61年に文部省が設置した大学共同利用機関で、学術情報の収集・提供・開発を目的とし、電子システムによって各大学の所蔵資料状況などを提供する。
*2 非来館型24時間利用体制 電子手段によって、研究室・自宅等から24時間利用可能な体制を整えたもの。
*3 書誌情報の国際的統合 各国で発行された資料情報を国際的に統合しようとするもの。

その他の図書館情報
寄贈図書
(本学教員関係)
−平成10年1月以降受入分−
さきたまの文人たち
松本鶴雄著 さきたま出版会 1997

音楽の宇宙(皆川達夫先生古希記念論文集)
戸澤義夫[ほか]執筆 音楽之友社 1998

現代アメリカ文学作家論(上)(下)
雨宮栄一訳[編] 池上書店 1979

異文化の深淵─ ドイツ人の心のうごめき
小林喬著 三修社 1998

前田利昌作品集
前田利昌著 上毎印刷工業 1997

日本−韓国合流展’97─ かみ ─
吉田富久一[ほか]著
現代芸術研究会 1997

FIBER AS ART Part VI’97
潜在する形─ 張と縮 ─ 吉田富久一[ほか]
ギャラリースペース21 1997

日本絵画のあそび(岩波新書 新赤版 574)榊原悟著 岩波書店 1998

近代文学論の現在
分銅惇作編 渡邉正彦[ほか]執筆
蒼丘書林 1998

Working Papers in English and
Applied Linguistics Volume4
若林茂則[ほか]執筆
University of Cambridge  1997

自分づくりの発想
─ 文学に学ぶ「ふれあい」の人間学 ─
雨宮栄一著 文化書房博文社 1999
               (受付順)
● 春季休業前後の利用案内 ●
【閉館日】
 2月24日(水)、25日(木)…入学試験のため
 2月26日(金)…館内整理
 3月8日(月)〜4月7日(水)
【長期貸出】
 開始日…2月8日(月)
 貸出冊数…6冊
 返却日…1〜3年生、院生 4月12日(月)
     4年生      3月5日(金)
※新年度は4月8日(木)から開館します。


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